「育成キャンセル」前編

「何も言わない上司」は、本当に優しい上司なのか?―広がる「育成キャンセル」

「ハラスメントと言われるくらいなら、あまり厳しいことは言わない方がいい」
「注意して関係が悪くなるくらいなら、自分でやった方が早い」

管理職の方から、このような声を聞くことがあります。

もちろん、ハラスメントへの意識が高まることは大切です。
しかし、その結果として、部下に必要な指導まで控えてしまうとしたらどうでしょうか。

最近、この状態を「育成キャンセル」と呼ぶようになっています。
皆様の組織では、このような事態は起こっていませんか。

管理職の6割以上が「育成キャンセル」を経験

株式会社ライトワークスが、20代の若手社員443名と30~50代の管理職443名、計886名を対象に行った調査では、管理職の61.2%が、部下への指導を積極的に行わずやり過ごす「育成キャンセル」を経験していました。

さらに、63.3%の管理職が「ハラスメントと受け取られるかもしれない」という懸念から、本来必要な指導や注意をためらった経験があると回答しています。

ところが、若手社員側の回答を見ると、少し違う景色が見えてきます。

若手社員の78.2%が「ハラスメントに当たらない範囲で、率直な指導・フィードバックをしてほしい」と回答しているのです。

つまり、

上司:「厳しいことを言ったら嫌がられるのでは」
若手:「成長するために、必要なことは言ってほしい」

というすれ違いが起きている可能性があります。

若手は「指導されたくない」わけではない

同調査では、「1対1で落ち着いた口調で問題点を指摘する」ことについて、若手社員の56.6%、管理職の58.9%が「指導の範囲」と回答しています。

一方で、「人前でミスを指摘する」「感情的に声を荒らげて怒鳴る」といった行為については、双方ともハラスメントと捉える割合が高くなっています。

ここから見えてくるのは、若手が嫌がっているのは、必ずしも「指導されることそのもの」ではないということです。

問題は、「何を言うか」だけではなく、「どう伝えるか」にあります。

「何も言わない」が、成長機会を奪うことも

指導しなければ、その場での衝突は避けられるかもしれません。

しかし、それが続くと部下は、

「自分の何ができていないのかわからない」
「どう改善すればいいのかわからない」
「この会社にいて成長できるのだろうか」

という別の不安を抱えることになります。

実際、同調査では、指導を避けられることで

「同世代の他社メンバーとスキルの差が開いてしまう」40.3%
「自分の改善点や弱点が客観的に把握できない」37.2%

という不安も示されています。

「傷つけたくないから言わない」
「ハラスメントが怖いから言わない」

その配慮が、結果として部下の成長機会を奪ってしまうこともあるのです。

ハラスメント対策は「言わないため」ではありません

ハラスメント研修というと、「これはNG」「この言葉は危険」といった禁止事項を学ぶイメージを持たれることがあります。

しかし、本来の目的は、管理職を萎縮させることではありません。

必要なのは、指導しないことではなく、適切に指導できること。

ハラスメントと適切な指導の境界線を理解したうえで、相手を尊重しながら、必要なことはきちんと伝える。

そこまでできて初めて、ハラスメント防止と人材育成は両立します。

弊社では、ハラスメントの知識だけをお伝えするのではなく、実際の職場で起こるケースを用いながら、「どこまでが適切な指導なのか」「では、どう伝えればよいのか」まで扱う管理職向け研修を実施しています。

「ハラスメントを恐れて管理職が部下に言えなくなっている」
「注意や指導を避ける管理職が増えている」
「若手が育たない」

こうした課題が見られる場合、必要なのは「もっと厳しく指導すること」でも「何も言わないこと」でもありません。

これからの時代に合った“育て方”を、管理職が身につけることではないでしょうか。

出典:株式会社ライトワークス「ハラスメントと育成キャンセルに関する意識調査」(2026年8月)